ADEOSには3カ国、5機関から提供された8種類のセンサが搭載されています。この衛星は地球環境の理解を目的とし、特に地球温暖化や成層圏のオゾン層の破壊に焦点を合わせています。搭載センサには各供給機関独自の観測計画があり、ADEOSサイエンスプログラムはそれらを統合したものです。中でも衛星の開発者であるNASDAの計画は、他のセンサ供給機関の計画よりも規模の大きいものになっています。この文書はNASDAによるADEOSサイエンスプログラムの現在の状況を述べたものです。ADEOS観測データの処理・解析が地球システム科学に寄与することを確実にするため、NASDA/EORCはADEOSサイエンスプログラムを発足させました。主な活動は以下の通りです。
- ADEOSサイエンスプログラムの策定
- アルゴリズム開発
- データセットの作成
- 校正と検証(CAL/VAL)
- 地上観測実験
- 地上観測データベースの構築
- 研究公募計画
- ADEOSデータ情報システムについて
- 科学的なミッション運用要求の調整
- 普及、広報活動
アルゴリズム開発
ADEOSサイエンスプログラムでは各種アルゴリズムが開発されていますが、それらのアルゴリズムの評価に基づき、NASDAにとって最適のものが選定されます。
- 標準プロダクトアルゴリズム
- NASDAがユーザに提供するプロダクトの大部分は標準プロダクトです。EOCにはプロダクト作成に最適なアルゴリズムが装備されています。アルゴリズムは必要に応じて改良されます。
- 準標準プロダクトアルゴリズム
- EORCでは標準プロダクトを加工して準標準プロダクトを作成します。またアルゴリズム自体を開発します。
- ADEOS低次データセット用アルゴリズム
- EORCはユーザ要求を満足し、環境研究の促進に寄与する低次データセットを作成します。またこれらのデータセットを作成するためのアルゴリズムも開発します。
- ADEOS高次データセット用アルゴリズム
- EORCは環境研究をさらに促進するための高次データセット及びそのためのアルゴリズムを開発します。
データセット作成
ADEOSデータから得られたデータセットを地球変動研究者らに提供することが、ADEOSサイエンスプログラムの最も重要な役割のひとつです。計画されている付加価値データセットは下記の通りです。"96"は打上げ後比較的早くに(打上げ後約半年頃から)作成可能なデータセットを意味します。"99"はADEOSミッション終了前に必要なアルゴリズムが開発され、データセット作成が打上げの3年後までに行われることを意味します。この表は現時点での計画を現わしたもので、ADEOSサイエンスプログラムの進行に伴い変更される可能性があります。
*全球データセットとしては作成されない。
アプリケーション 付加価値データセット 作成年 使用センサ 炭素循環 高精度土地被覆 96* AVNIR 全球土地被覆 99 OCTS, AVNIR 森林域 97 OCTS, AVNIR 植生指標 99 OCTS, POLDER, AVNIR 温室効果気体 99 IMG クロロフィル 96/99 OCTS,TOMS, NSCAT,POLDER エネルギー循環 気温/水蒸気(対流圏上層) 99 IMG 海面水温 96/99 OCTS/NSCAT, IMG 海上風ベクトル 96 NSCAT 大気・海洋相互作用 96 OCTS, NSCAT, IMG 海洋循環 99 OCTS, NSCAT 海面エアロゾル 99 OCTS, POLDER 成層圏オゾンの破壊 オゾン全量 96/99 TOMS/IMG オゾン鉛直分布 96/99 ILAS/IMG, TOMS 標高抽出 標高データ (DEM) 96 AVNIR 大規模災害 火山及び火山生成物、SO2 96 AVNIR, OCTS, TOMS 大規模野火 96 OCTS, AVNIR, IMG
校正と検証
ADEOSはOCTS(海色海温走査放射計)やAVNIR(高性能可視近赤外放射計)など、8種類のセンサを搭載しており、海面水温やクロロフィル濃度、その他の大気特性を高精度で測定します。OCTSとAVNIRの校正検証の概要は以下の通りです。
- OCTS
- 高感度観測を可能にするため、画質評価、センサの校正、観測データ検証作業を打上げ後に行います。画質評価では、成果物の品質とともに空間分解能や飽和率などの基礎的な画像特性に重点を置きます。この画質評価は打上げ後の半年間継続されます。
- AVNIR
- 画質評価、センサの校正、観測データの検証はOCTSと同様の手続きで実施されます。センサ校正は衛星搭載センサのデータと航空機搭載センサのデータを用いて行われます。観測データ検証は、地表面反射率、標高データ(DEM)などの物理量をグランド・トルース・データと比較し、アルゴリズムを評価します。
- 航空機実験
- 航空機搭載センサのデータをセンサ校正情報として使用します。航空機センサデータから、センサへの入射輝度を推定し、衛星データと比較し校正を行います。NASA/JPL所有の搭載型AVIRISによる航空機実験を行います。AVIRIS/OCTSの陸域モードではエドワーズ空軍基地など米西海岸の4 ヶ所、OTCS海域モードではカリフォルニア沖で実施されます。実験は打上げ後、半年毎に2週間ずつ実施する予定です。
- 海色データ取得
ブイ - ADEOS打上げ後、NASDAが開発した海洋観測ブイを大和堆(日本海)に投入します。定点観測ブイとして天空照度、海面からの放射輝度、風向風速、及び海面水温等の計測を行います。晴天データは年間に約30点が見込まれます。
水産庁との共同研究による海洋データの取得 - ADEOS搭載センサは放射光量、クロロフィル濃度、及び海面水温のデータを取得します。これらのデータは海洋観測ブイによって取得することも可能です。晴天データは年間に約 200点が見込まれます。
- 海面水温(SST)
- OTCSの海面水温データを検証するために、NOAAが太平洋に設置したブイのデータを使用します。晴天データは年間に約 1,000点が見込まれます。
- 大気データ
- OCTSアルゴリズムに組み込まれる大気補正ルーチンが、北海道、新潟、金沢、及び沖縄で取得されたデータを用いて検証されます。
- DTL受信機
- 平成8年3月よりDTL受信機12台の製造が始まり、同年10月には EOCへの納入が予定されています。DTL受信機は、水産庁等(東大海洋研、国立極地研を含む)の共同研究相手機関に設置され、水産、及び他の実用分野でのOTCSデータの応用を促進します。
地上観測キャンペーンの実施
データセットの品質(精度)を保証するには、十分なセンサの校正とデータ成果物の検証が不可欠です。各センサの校正と検証は、センサ供給機関が行うことになっていますが、衛星、及びAVNIRとOCTSセンサの供給機関でもあるNASDAは、ADEOSの校正・検証計画を立案します。ADEOS校正・検証計画の中心はADEOSに搭載されている複数センサのための地上観測です。従って、相互校正、検証がADEOS地上観測キャンペーンの中心となります。このキャンペーンの概要(素案)は以下の通りです。
- 校正
主要目的 ADEOSセンサーの校正および相互校正 実施地点 カリフォルニア、アメリカ 実施時期 1997年2月
- 検証-海洋
主要目的 海洋の地球物理学パラメータの検証 実施地点 三陸沖、太平洋北西部 実施時期 1997年5月
- 検証-大気圏
主要目的 大気の地球物理学パラメータの検証 第2目的 雪氷研究 実施地点 フェアバンクスとバロウ、アラスカ、アメリカ 実施時期 1997年4月
- 検証-植物
主要目的 植物パラメーターの検証 第2目的
(実施地点2)オゾンの検証 実施地点1 パッソ、マレーシア 実施時期 1997年7月 実施地点2 ヤクーツク、シベリア、ロシア 実施時期 1998年9月
地上観測データベースの構築
ADEOSデータ処理・解析の校正・検証に有用なデータが、上述の地上観測キャンペーンにより得られます。これらのデータは時間的にも空間的にも局所的なデータであるため、校正・検証のみならず、データ処理・解析のためにも更なる地上観測データが必要となります。ADEOSサイエンスプログラム実施のための地上観測データ収集・整備を目的として、NASDAはADEOS 地上観測データベースを構築しつつあります。
このデータベースは、多種の地上観測データで構成される予定で、観測キャンペーン、ADEOS PI(代表研究者)の収集データ、及び気象データなどの既存データベースがこれに含まれます。
このデータベースは、平成8年東京・六本木に設立された地球観測データ解析研究センター(EORC)内に構築され、機密扱いのデータを除いた収集データが、ADEOSのPIに配布されます。
研究公募計画
NASDAはセンサ供給機関と合同で既に二つの研究公募を行っています。最初の研究公募は、通産省、環境庁と合同で発出され、ADEOSサイエンスの全般に重点が置かれました。この合同研究公募(JRA)では150名ほどのPIが選抜されました。二回目のJRAはフランスのCNESとの合同のものででPOLDERサイエンスに関して発出されました。
三回目の合同研究公募は1995年に発出される予定で、東南アジアでのADEOS データ利用を目的としています。四回目のJRAは最初のJRAのPIが網羅できなかった分野に重点を置く予定です。
科学的なミッション運用要求の調整
ミッション運用要求の調整もADEOSサイエンスプログラムにとって重要です。ADEOSセンサのほとんどは全球観測センサで連続作動しますが、要求に応じて運用されるセンサもあります。AVNIRはその代表的なセンサで、要求のあった時のみ作動します。また、ポインティング能力に関する問題もあります。そのため、いくつかのミッション運用要求が競合する場合があります。
地球観測データ解析研究センター