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地球が見える 2014年

「しずく」が捉えた北極海氷面積の最新状況 氷が増える南極海と減る北極海

AMSR2が捉えた北極域の2014年9月16日の海氷密接度分布
図1 AMSR2が捉えた北極域の2014年9月17日の海氷密接度※1分布。

北半球の海氷面積の季節変動(2014年9月x日現在)
図2 北半球の海氷面積※2の季節変動(2014年9月27日現在)

 今年も北極海の海氷が年間で最も小さくなる時期を迎えています。図1は2012年5月に打上げられた水循環変動観測衛星「しずく」に搭載されている高性能マイクロ波放射計AMSR2が捉えた2014年9月17日の北極域の海氷密接度分布を、また、図2は北半球の海氷域面積の季節変動を示しています。
北極海の海氷は2012年9月に観測史上最小面積を記録しましたが、今年3月の北極周辺域の気温が高温傾向であったため、図2に示すように今春には2000年代平均を下回る小さ目の面積で推移しました。融解の季節を迎えてからは、若干減少速度の増減はありましたが、2013年(最小時期に歴代6位の小ささを記録)と似たような速度で減少を続け、2014年9月17日に歴代7位に相当する488万km2(昨年比、約7.5万km2、北海道1つ分弱の増加)を記録して以降、海氷面積が増加に転じています。
今年の海氷域の分布は、ロシアのラプテフ海の海氷が北緯85度以北にまで大きく後退していることが特徴として挙げられます。下記で述べるように、今夏に卓越した気圧配置の影響で、シベリアからの風により海氷が高緯度側に押し込められたことが要因に挙げられます。現在は北極海内で新しい海氷が生成され始めていることから、上述した9月17日の面積値が今年の最小値となる見込みです。

1978年から現在までの北半球海氷面積の長期変動 (一日毎の平均値)
図3 1978年から現在までの北半球海氷面積の長期変動 (一日毎の平均値)

図3は、人工衛星搭載マイクロ波放射計のデータを解析して算出した1978年から現在まで北半球の海氷面積の推移を示します。先日、南半球の海氷面積は3年連続で観測史上最大記録を更新したとお伝えしましたが、それとは対照的に、北半球では1970年代後半以降急速な減少傾向にあり、2014年も依然として面積が小さい状態であることが分かります。

一見すると、昨今の地球温暖化現象に反して南極周囲の海氷が増えているように見えますが、その増加のメカニズムについては、研究者の間でも諸説発表されている段階で、まだはっきりとは分かっていません(一例として挙げると、海洋中層の温暖化に伴い南極棚氷の底面が融解→低温・低密度・低塩分の融解水が南大洋の表面を覆う→塩分が低いために同じ温度でも以前より結氷しやすい→近年の海氷面積の増加を引き起こす、というプロセスがBintanja 他 (Nature Geoscience, 2013, DOI: 10.1038/NGEO1767)により発表されています)。このような南極と北極の海氷面積変動の挙動の違いは、まさに、地球の気候変動を理解する上での鍵を我々に提供してくれているのかもしれません。今後も観測事実を積み上げて、理解を深めていく必要がありそうです。

北極域の夏期曇天率および500hPa高度の偏差の分布2012年6-8月平均 北極域の夏期曇天率および500hPa高度の偏差の分布2013年6-8月平均 北極域の夏期曇天率および500hPa高度の偏差の分布2014年6-8月平均
2012年6-8月平均 2013年6-8月平均 2014年6-8月平均
図4 北極域の夏期曇天率および500hPa高度の偏差*の分布(2012、2013、2014年)
*2000-2014年平均値からの偏差を示す。曇天率[単位:%]は晴天が多いところが赤く、曇天が多いところが青く色づけされている。また、500hPa高度[単位:m]の実線は高気圧側、破線は低気圧側偏差の分布(NCEP/NCAR再解析値を使用)を示します。

 図4は、2012、2013年と今年の夏期(6-8月の3カ月平均)の北極海上空の曇天率と500hPa等圧面高度の偏差を示しています。昨年は、北極点を中心に低気圧が広がりやすく、曇天率も2割程昨年より高かった(つまり雲が日射を遮り、海氷融解を抑制する天候状態となっていた)状態が持続しましたが、今年は北極海上に高気圧偏差と低気圧偏差の中心が交互に並んでいる様子が分かります。今夏はこのような局地的に偏在する気圧配置が形成されやすかったため、シベリアからの卓越風(赤線矢印)に押し込まれる形で、ラプテフ海の海氷が図1に示すように、大きく高緯度側に後退する要因になったと考えられます。

北極域の陸域反射率及び海面輝度温度の合成画像(2014年8月13-28日)
図5 北極域の陸域反射率及び海面輝度温度の合成画像(2014年8月13-28日)

海氷が後退した海域では、日射を吸収して水温が上昇しやすくなります。図5は、8月中旬から後半(13日〜28日)にかけてNASAの地球観測衛星Terraが搭載する光学センサMODISにより観測された晴天時の陸域・海氷域反射率および海面輝度温度を合成した画像です。ラプテフ海の表面水温(点線赤丸)が5℃以上に上昇していることが分かります。このことからも、この海域では海氷が融解・後退し、海氷のない温かい海域が広がっていたことが分かります。

したがって、最近頻繁になってきた欧州とアジアを結ぶ北極海を航路とする船舶の運航も、ラプテフ海域においては今年はスムーズに行われたと推測されます。しかし、北極海航路の要衝といわれるタイミル半島沖のセヴェルナヤゼムリャ諸島周辺では、今年も水温が低く、また島の西方域に細かい海氷が残っている様子が図5のMODIS画像からも確認することができますので、貨物船などの船舶の航行には砕氷船の先導が必要になると考えられます。

なお、JAXAが今年5月24日に打上げたALOS-2には天候に関係なく地表面の様子を観測できる合成開口レーダーPALSAR-2が搭載されています。PALSAR-2は災害監視、国土管理、資源管理、資源探査など、陸域の観測が主なミッションですが、北極海の海氷監視にも今後PALSA-2の観測機能が威力を発揮するものと期待されます。

以上見てきたように、今年も北極域の気圧配置や気温の変動が、海氷面積の減少速度の振幅に影響を及ぼしているようです。近年の海氷面積減少により、北極海の海氷の厚さが薄くなってきていることが、周囲の環境因子の変動の影響を敏感に受けやすくなってきている要因の一つと考えられます。9月の融解最小時期を過ぎても、北極海の海氷は、まだ薄く脆い状態がしばらく続きます。JAXAでは、今後も「しずく」による北極海氷の監視を続けていき、「地球が見える」等で最新の状況をご報告する予定です。
なお、北極海の海氷密接度の分布画像および海氷面積値情報は、JAXAが米国アラスカ州立大学北極圏研究センター(IARC)に設置しているIARC-JAXA情報システム(IJIS)※3を利用した北極海海氷モニターwebページ、 JAXAの地球環境監視webサイト(JASMES)および極地研究所が開設している北極域データアーカイブweb上の海氷モニターViSHOP上で日々更新を行い、公開しております。
IARC海氷モニター
JASMESサイト
極地研究所ViSHOP

※1 海氷密接度:衛星の瞬時視野内に含まれる海氷域の面積割合(%)
下図のような、衛星搭載のマイクロ波放射計がある時刻に観測した瞬時視野(仮に10km×10kmとする)に占める面積の割合が海氷50%、海面50%である場合、その海域の海氷密接度を50%と定義する。

北極域の陸域反射率及び海面輝度温度の合成画像(2014年8月13-28日)

※2 海氷面積:本稿で用いる海氷面積は、海氷が浮遊する海域の広さとして定義しており、海氷密接度15%以上の海域面積の総和をとったもの(km2)。

※3 IARC-JAXA情報システム(IJIS):1999年(平成11年)10月、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)の前身である宇宙開発事業団(NASDA)が、国際北極圏研究センター(IARC)に人工衛星データ利用推進のためのコンピュータシステム「IARC-NASDA情報システム(INIS)」を設置し、IARCを拠点とする北極圏研究プロジェクトが始まりました。2005年(平成17年)3月、JAXAは、INISに代わる新たなシステム「IARC-JAXA情報システム(IJIS)」を構築し、IARC-JAXA北極圏研究を推進しています。



観測画像について

(図1)
観測衛星: 第一期水循環変動観測衛星しずく(JAXA)
観測センサ: 高性能マイクロ波放射計 AMSR2(JAXA)
観測日時: 2014年9月17日
いずれもAMSR2の6つの周波数帯のうち、36.5 GHz帯の水平・垂直両偏波と18.7 GHz帯の水平・垂直両偏波のデータを元に、アルゴリズム開発共同研究者(PI)であるNASAゴダード宇宙飛行センターの Josefino C. Comiso博士のアルゴリズムを用いて算出された海氷密接度を表しています。データの空間分解能は25 kmです。

(図4)
観測衛星: 地球観測衛星Terra (NASA)
観測センサ: 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA)
観測日時: 2012、2013、2014年6-8月
MODISの可視−熱赤外域の反射率・輝度温度データから曇天域を特定し、3か月間の曇天日の割合(曇天率)を算出したもの。画像は、2000年以降の曇天率の平均値からの差(偏差)をとったもので、晴天が多いところが赤く、曇天が多いところが青く色づけされています。元の画像の分解能は9kmです。なお、観測画像に重ねて表示している500hPa高度には、NCEP/NCAR再解析値を使用しています。

(図5)
観測衛星: 地球観測衛星Terra (NASA)
観測センサ: 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA)
観測日時: 2014年8月13-28日
16日間のMODISデータから晴天域の画像のみを抽出した画像を合成したもので、陸域部分はMODISのチャンネル1(波長:620〜670nm)、4(波長:545〜565nm)、3(波長:459〜479nm)の反射率画像を赤、緑、青の各色に使用したRGB合成画像で、緑色は森林、白色は積雪または海氷、茶色は沙漠を表しています。また、海域部分は、熱赤外域の輝度温度を低温側が暗青色、高温側が赤系色になるように色付けした画像です。16日間に一度も晴天域の画像が取得されなかった部分は黒色で示されています。元の画像の分解能は5kmです。

本文ここまで。
画像:人工衛星の情報を掲載 サテライトナビゲーター
画像:衛星利用の情報を発信 衛星利用推進サイト
画像:衛星から見た地球のデータ集
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