ネパール・バルン川上流で発生した洪水のALOS-2による緊急観測及び初期解析

Posted: May 26, 2017, 10:30 (UTC)

概要

  • ネパール・バルン川において2017年4月20日に洪水が発生したことが報告されました。
  • センチネルアジアの要請に基づきALOS-2搭載PALSAR-2による緊急観測が4月25日に実施されました。
  • 一つの氷河湖において、2008年から2017年まで面積が拡大し、2017年4月18日から25日にかけて大きく縮小する面積変化が見られました。
  • 氷河湖下流において洪水前にはなかった堆積物が確認されました。
  • ALOS-2観測とこの解析から氷河湖決壊洪水の可能性が高いことがわかりました。

2017年4月20日にネパール・バルン川上流で発生した大規模洪水について、センチネルアジアからの要請に基づき、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS: Advanced Land Observing Satellite-2)に搭載された合成開口レーダ(PALSAR-2: Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar-2)を用いた緊急観測を4月25日に実施しました。PALSAR-2から照射されたマイクロ波が地表面で反射・散乱したのちアンテナ方向に戻る強度 (後方散乱強度) は、水面では非常に低いため、湖は均一な暗い部分として見えます。これを利用し、洪水上流の氷河湖の状況を確認するために、観測によって得られた幾何補正済み後方散乱強度画像から湖岸線を抽出しました(図1)。

図1: 幾何補正済みALOS-2/PALSAR-2後方散乱強度画像(2017年4月25日観測)

加えて、過去に観測されたALOS/PRISM画像 (2008年1月5日)(図2)(2009年2月22日)(図3)、PALSAR-2画像(2014年12月23日)(図4)、センチネル2画像(2017年4月18日)(図5)および洪水後のセンチネル2画像(2017年5月8日)(図6)から氷河湖の時系列変化を調べました。

図2: ALOS/PRISM画像(2008年1月5日観測)

図3: ALOS/PRISM画像(2009年2月22日観測)

図4: 幾何補正済みALOS-2/PALSAR-2後方散乱強度画像(2014年12月23日観測)

図5: センチネル2画像(2017年4月18日観測)

図6: センチネル2画像(2017年5月8日観測)

この結果、一つの氷河湖[27.812ºN, 89.138ºE]において湖面積が2008年から2017年にかけて増加し、その後の洪水前後で急に縮小しているように認められることから(図7)、この氷河湖が洪水の原因である可能性が高いことがわかりました。洪水後のセンチネル2画像では洪水前には見られなかった堆積物が下流に確認でき(図8および図9)、氷河湖決壊洪水(GLOF)の可能性が高いことが示唆されました。この災害の全貌を明らかにし、洪水の発生過程を科学的に理解するためには、現地調査を含めた更なる検証が必要です。

図7: 氷河湖面積の時系列変化

図8: 洪水後のセンチネル2画像(2017年5月8日観測)

図9: 洪水前のセンチネル2画像(2017年4月18日観測)

緊急観測によって得られた衛星データは速やかに現地関係機関に提供されました。JAXAはこのようなアクセスの難しい高山地域において発生した災害についても、関係機関と連携し迅速に衛星観測を実施します。

*センチネル2画像はヨーロッパ宇宙機関(ESA: European Space Agency)によって観測・提供されている無償衛星画像です。

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