「だいち2号」によるイタリア中部地震の観測結果について

Posted: August 25, 2016, 9:30 (UTC)
Updated: September 1, 2016, 8:00 (UTC)
Updated: November 4, 2016, 8:00 (UTC)
Updated: November 11, 2016, 9:00 (UTC)

2016年8月24日に発生したイタリア中部の地震について、陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)は搭載するLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2; パルサー2)により観測を実施しました。観測は8月24日23協定世界時(日本時間8月25日午前8時)および8月31日11協定世界時(日本時間8月31日午後20時)に行われ、観測データは宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA )より関連機関へ提供されました。表1および図1に観測の概要を示します。
さらに10月26日および30日に発生した同地域の地震についても、「だいち2号」(ALOS-2)は10月28日(日本時間29日)、11月2日(日本時間3日)および11月9日(日本時間10日)にも観測を実施しました。

表1. 緊急観測の内容
観測時間 (UTC) 軌道番号 観測モード 偏波 観測方向 ビーム番号
2016/08/24 197 Stripmap 10 m HH+HV Right F2-7
2016/08/31 92 Stripmap 10 m HH+HV Right F2-6
2016/10/28 198 Stripmap 10 m HH+HV Right F2-5
2016/11/2 197 Stripmap 10 m HH+HV Right F2-7
2016/11/9 92 Stripmap 10 m HH+HV Right F2-6
図1:「だいち2号」搭載PALSAR-2による2016年8月24日23協定世界時(日本時間8月25日午前8時)分頃の緊急観測が行われた範囲(緑:8/24の観測 赤:8/31の観測) 図1: 緊急観測が行われた範囲(緑: 8/24の観測 赤: 8/31の観測)
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図2は今回2016年8月24日と、2015年9月9日のほぼ同時刻の同じ条件による観測データを用いた干渉画像です。この画像では色は位相差を表し、地殻変動があると色が緑色から変化します。震源から東の領域に、南北約20km、東西約10km にわたり、最大約20cm の視線方向の変位(東方向もしくは下方向への地殻変動)が検出されました。大きな被害が生じたと報道されるアマトリーチェは変動域の南端にあたります。

図2: PALSAR-2による2016年8月24日と、2015年9月9日のほぼ同時刻の同じ条件による観測データを用いた干渉画像
図2: PALSAR-2による干渉画像
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図3および図4は、アマトリーチェおよびイッリカの市街地におけるコヒーレンス差画像です。コヒーレンス差画像は災害前(2015年9月9日と2016年1月27日)と災害前後 (2016年1月27日と2016年8月24日) の画像類似性の変化より算出されます。濃い橙色の領域は災害前後の間に地表面が大きく変化したことを意味し、この変化の中に今回の地震の被災も含まれていると考えられます。

図3: アマトリーチェにおけるコヒーレンス差画像
図3: アマトリーチェにおけるコヒーレンス差画像
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図4: イッリカにおけるコヒーレンス差画像
図4: イッリカにおけるコヒーレンス差画像
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8月31日の観測結果:
図5は今回2016年8月31日と、2016年5月25日のほぼ同時刻の同じ条件による観測データを用いた干渉画像です。震源から東の領域に、南北約20km、東西約10km にわたり、最大約25cm の視線方向の変位(西方向もしくは下方向への地殻変動)が検出されました。

図5: PALSAR-2 による干渉画像 (被災前: 2016年5月25日; 被災後: 2016年8月31日)
図5: PALSAR-2による干渉画像
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図6および図7は、図2および5の干渉画像から準東西および準上下の成分変動を分離したものです。最大でおおよそ15cm 程度の水平変動、20cm 程度の垂直変動が検出されました。

図6: 準東西成分
図6: 準東西成分
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図7: 準上下成分
図7: 準上下成分
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10月28日および11月2日の観測結果:
図8は今回2016年10月28日と、2016年2月5日のほぼ同時刻の同じ条件による観測データを用いた干渉画像です。図の南側に8月24日の地震、北側に10月26日の地震に対応する地殻変動がそれぞれ検出されました。いずれも最大約20cm の視線方向に遠ざかる変位(東方向もしくは下方向への地殻変動)が検出されました。

図8: PALSAR-2 による干渉画像 (被災前: 2016年2月5日; 被災後: 2016年10月28日)
図8: PALSAR-2による干渉画像
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図9は11月2日と8月24日の観測データを用いた干渉画像です。ここには10月26日と30日の地殻変動が重畳して検出されました。約60cmの視線方向に遠ざかる変位(東方向もしくは下方向への地殻変動)がカステッルッチョ付近で、約30cm の視線方向に近づく変位(西方向もしくは上方向への地殻変動)がノルチャ付近で検出されました。

図9: PALSAR-2による干渉画像 (被災前: 2016年8月24日; 被災後: 2016年11月2日)
図9: PALSAR-2による干渉画像
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図10 は11月2日と2015年9月9日の観測データを用いた干渉画像です。この図には、これまで発生した8月24日、10月26日、30日の3件の地震に伴う地殻変動が重畳されています。地殻変動の領域は南北約50cm 、東西は40km 以上におよびます。

図10: PALSAR-2による干渉画像 (被災前: 2015年9月9日; 被災後: 2016年11月2日)
図10: PALSAR-2による干渉画像
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Update: 11月9日の観測結果
図11は今回2016年11月9日と、8月31日のほぼ同時刻の同じ条件による観測データを用いた干渉画像です。10月26日と30日の地震に対応する地殻変動が重畳して検出されました。カステルッチョ付近で最大約80cm の視線方向に遠ざかる変位(西方向もしくは下方向への地殻変動)、その東のヴェットーレ山付近で25cm の視線方向に近づく変位(東方向もしくは上方向への地殻変動)が検出されました。

図11: PALSAR-2 による干渉画像
図11: PALSAR-2による干渉画像
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図12 は11月9日と5月25日の観測データを用いた干渉画像です。この図には、これまで発生した8月24日、10月26日、30日の3件の地震に伴う地殻変動が重畳されています。

図12: PALSAR-2 による干渉画像
図12: PALSAR-2による干渉画像
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図13および図14は、図10および12の干渉画像から、これまで発生した地震の準東西および準上下の成分変動を分離したものです。暫定値としておおよそ30cm 程度の水平変動、70cm 程度の垂直変動が検出されました。

図 13: 準東西成分
図 13: 準東西成分
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図 14: 準上下成分
図 14: 準上下成分
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参考:
2009年4月24日: 2009年ラクイラ地震における観測結果

© JAXA EORC