「だいち2号」によるハワイ・キラウェア火山噴火および地震の観測結果について

Posted: May 10, 2018, 4:00 (UTC)
Updated:May 15, 2018, 9:00 (UTC)
Updated:May 21, 2018, 8:00 (UTC)

概要

  • ハワイ島キラウェア火山において、2018年5月3日、4日に噴火が発生した。
  • 現地時間5月4日12時32分 (日本時間5日7時32分)にMw6.9の地震が発生した。
  • JAXAは5月8日に「だいち2号」による観測を行い、地殻変動の様子を捉えた。
  • 5月12日(日本時間13日)の観測画像から、より広域の地殻変動と溶岩湖の湖面の低下を捉えた。
  • 5月17日12時16分(日本時間18日7時16分)の観測画像から、17日4時17分頃に発生した爆発的噴火に伴うハレマウマウ火口の変化の様子を捉えた。
  • データは現地関係機関へ提供しており、夜間あるいは雲や噴煙の下でも地表を観測可能な「だいち2号」の特性を活かし、火山活動の監視に貢献している。

 ハワイ島キラウェア火山において、2018年5月3, 4日に発生した噴火活動、並びに4日に発生したマグニチュード6.9(USGS)の地震について、 JAXAは国際災害チャーター等からの要請に基づき、「だいち2号」(ALOS-2)搭載の合成開口レーダ「PALSAR-2」により観測しました。 表1に観測の概要を、図1に観測範囲を示します。

表1:「だいち2号」による緊急観測の概要
観測日(UTC)軌道番号観測モード偏波観測方向ビーム番号
2018年5月8日89Stripmap 10mHH+HVF2-6
2018年5月12日185ScanSARHH+HVW2
2018年5月17日186ScanSARHH+HVW2
図1: ハワイ島の地形図と「だいち2号」による観測範囲。
赤線がStripmapモード(表1の①)、青線がScanSARモード・パス185(表1の②)の観測範囲を表す。黒線は図5の対象範囲。

図2: 2018年5月8日と2018年2月27日の観測データを用いた差分干渉画像。(クリックで拡大画像へ)

 図2は表1の①2018年5月8日の観測データと2018年2月27日のほぼ同時刻の観測データを用いた差分干渉画像です。 この画像において、色は衛星視線方向(Illumination)の地表面の変位量を表し、地表が衛星に近づく方向に動いた場合には青色(寒色系)、 衛星から遠ざかる方向に動いた場合は赤色(暖色系)に変化することを意味しています。 この解析結果では、画像のほぼ中央を境にして、北側ではレイラニ・エステート(Leilani Estates)近郊で最大70 cm程度の衛星に近づく変動(隆起もしくは西向き)、 南側では最大60 cm程度の衛星から遠ざかる変動(沈降もしくは東向きの変動)が観測されました。

図3: 2018年5月8日と2018年2月27日の観測データを用いたMultiple Aperture Interferometry画像。(クリックで拡大画像へ)

 図3は図2と同様の観測データを用いたMultiple Aperture Interferometry画像です。Multiple Aperture Interferometry(MAI)は衛星進行方向の変位量を表し、 地表が衛星進行方向と同じ方向に動いた場合は赤色(暖色系)、逆向きに動いた場合には青色(寒色系)に変化することを意味しています。 この解析結果では、画像のほぼ中央を境にして、北側ではレイラニ・エステート(Leilani Estates)近郊で最大70 cm程度の衛星進行方向(ほぼ北向き)の変動、 南側では最大110 cm程度の衛星進行方向と逆向き(ほぼ南向き)に遠ざかる変動が観測されました。

図4: 2018年5月8日と2018年2月27日の観測データを用いた強度画像のカラー合成。(クリックで拡大図へ)

 図4は、赤色に2月27日のHV偏波、緑色に5月8日のHV偏波、青色に5月8日のHH偏波の強度画像を割りあてた色合成画像で、 火口の割れ目や溶岩流が赤色に見える着色になっています(図4の赤い矢印の部分)。 この画像ではレイラニ・エステート(Leilani Estates)付近で赤色のシグナルが見えています。

図5: 2018年1月20日と2018年5月12日の観測データを用いた差分干渉画像。(クリックで拡大図へ)

 図5は表1の②2018年5月12日の観測データと2018年1月20日のほぼ同時刻の観測データを用いた差分干渉画像です。 この解析結果から、より広域な地殻変動の様子が捉えられました。図2の画像で見えていた変動は、プウオオ(Pu’u ’O’o)火口付近まで伸びており、 図2の結果と合わせるとおよそ25 kmに渡ると考えられます。 レイラニ・エステート(Leilani Estates)の南側では約100 cmの衛星に近づく変動が観測されました。 また、ハレマウマウ(Halemaumau)火口周辺では、地表面が約50 cmほど衛星から遠ざかる変動をしていることがわかりました

図6:2018年1月20日と2018年5月12日の強度画像(HH偏波)の比較。
上段がハレマウマウ火口、下段がプウオオ火口の様子(クリックで拡大図へ)

 図6には、ハレマウマウ火口およびプウオオ火口周辺の、5月12日と1月20日の強度画像の比較を示します。 いずれのクレーターでも、火口がより深くなるような地形の変化が見られ、火口内の溶岩湖の湖面の低下を示していると考えられます。

図7:2018年1月25日と2018年5月17日の観測データを用いた差分干渉画像。(クリックで拡大図へ)

 図7は表1の③2018年5月17日の観測データと2018年1月25日のほぼ同時刻の観測データを用いた差分干渉画像です。図5と同様の地殻変動の様子が捉えられましたが、図7で使用したデータ③は現地時間17日4時17分頃に発生した大規模な噴火の直後のデータであり、ハレマウマウ火口では地表面が衛星から遠ざかる方向に約110 cm変動しています(図5では約50 cm)。

2018年5月12日と2018年5月17日の強度画像(HH偏波)の比較。
矢印がハレマウマウ火口を表す(クリックで拡大図へ)

 図8にはハレマウマウ火口周辺における、表1の②5月12日と③5月17日の強度画像の比較を示します。爆発的噴火後の5月17日では火口(黒い部分)がより大きくなっています。


 JAXAでは今後も「だいち2号」でハワイ島の観測を続けていく予定です。



 関連リンク:
 Multiple Aperture Interferometryについて(http://www.gsi.go.jp/cais/MAI.html)


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